Something 007 in ロンドン
ヒースロー空港に到着して真っ先に向かったのは、ハンプシャーの広大な森の中に佇む一軒家ホテル、ヘック フィールド プレイス。
ロンドンの喧騒からは想像が付かないほど静かで、穏やかな陽の光と澄んだ空気に満ち溢れた優しい場所だった。
レンガ造りのクラッシックな外観とは異なり、ホテル内はヒストリカルな風合いを残しつつも、コンテンポラリーなカントリーハウスとでも言うべき洒落た内装で、温かみが感じられて随分と居心地が良かった。
ファーム・トゥ・テーブルを地で行く料理は素晴らしく、スタッフのサービスは親切でフレンドリー。滞在中は2つのレストランとバーを行き来しつつ、ローカル料理とワインを楽しませていただいた。
ヘック フィールド プレイスにて贅沢な数日間を過ごした後は、“Something 007”を掲げた旅の最初の地”シケイン”へ。
シケインは、ハンプシャーに拠点を構える知る人ぞ知るアストンマーチンのレストアファクトリーで、ヘック フィールド プレイスのゲストのみがアクセスを許された特別な場所だ。
”Everything Aston Martin”のカンパニーロゴが示す通り、クラシックから現代のアストンマーティンを修復、チューンアップさせるための技術とサービスを有したプロフェッショナルチームで、工場内にある車は年代こそ違えど全てアストンマーティン。
特別なゲストとして迎えられ、スタッフが作業工程を説明しながら各部屋を案内してくれた。
所狭しと並ぶ車体は、DB4から、Vantage V600、DB7、ヴァンキッシュ、DB9、V8ヴァンテージ、シグネット、ヴィラージュ、DBS、One-77、DB9,DB11と豊富なラインアップ。そんな中、一番のお目当ては何と言ってもDB5。
ボンドカーとして幾度となく画面に登場した名車中の名車で、ドライバーズシートに座らせてもらって感動のひととき。
童心に帰ってシケイン社訪問を楽しんだ後、秋色のロンドン市内へと向かってチェックインしたのは、ピカデリーサークルのリージェント通りに建つホテル カフェ ロイヤル。
1865年のオープン以来、ロンドンの社交場として栄えていたカフェ ロイヤルを残しつつ、154室のホテルのコンテンポラリーなデザインで蘇ったロンドン屈指のラグジュアリーホテルだ。
グルメ、観光、ショッピングには最高のロケーションに建つ歴史的建物で、ホテル内はシックでエレガントな佇まい。
当時の栄華を感じつつも最新の設備と上質なホスピタリティで快適に過ごさせてもらった。
そんなホテル カフェ ロイヤルを拠点に“Something 007”を満喫したのだった。
セントジェームス通りにある“ロック・アンド・コー・ハッターズ“は、世界最古かつ英国王室御用達の帽子店。
そして、映画007シリーズで登場するキャラクターの帽子を手掛けているショップでもあり、訪れた時はちょうど007シリーズ60周年を記念する帽子展覧会「60 Years of James Bond Hats」の開催中だったこともあり、各シーンを思い浮かべながらしばしボンドの世界に浸ったのだった。
60年代の『ゴールドフィンガー』に登場したオッドジョブの特撮帽子、2015年の『スペクター』に登場したモニカ・ベルッチの葬儀用帽子、同じく『 スペクター』の1シーンでQが山でかぶっていた毛糸のビーニー、『ダイ・アナザー・デイ』で使われたフェンシングフォイルとボンドのフェンシングマスク・・・。
展示されていた19の帽子の脇には小さなアーカイブが添えられ、当時の懐かしい思いを蘇らせてくれた。
ロンドン滞在中に足を運んだのは、創業1908年の老舗ホテル、デュ―クスの1階にある”デュ―クス・バー”だ。
表通りのセント・ジェームス・ストリートからは発見することができない奥まった場所にあり、いかにも隠れ家めいた雰囲気があり独特のオーラを放つバーだ。
「Vodka martini, shaken, not stirred」は、ボンドがマティーニを頼む時の決まりゼリフで、『カジノ・ロワイヤル』でダニエル・クレイグが、ル・シッフルとポーカーで対峙するシーンで放ったこの一言には痺れたものだ。
007の原作者イアン・フレミングが通った“デュークス・バー“こそ、作中に登場するこのマティーニが考案された伝説のバーなのである。
ボンドがオーダーしたレシピによれば、「ゴードン・ジン3オンス、ウォッカ1オンス、キナリレ0.5オンスをシェーク。
レモンピールを絞って香りをつけた後グラスに」ジェームス・ボンドの恋人、ヴェスパー・リンドの名前から”ヴェスパー・マティーニ”と呼ばるようになり、今や世界中のバーで供されるまでになった。
実際にオーダーしたデュ―クス・バーのヴェスパー・マティーニはと言うと・・・ホワイトジャケットを着たバーテンダーが、ボトルが並んだワゴンを押してテーブル脇に立ち、キンキンに冷えたボトルを頭上の高さに持ち上げ、霜の付いたグラスへと垂らし注いでステアするだけ。
注がれたリキュールは、見るからに粘度が高く、ジンとウォッカ、そしてオレンジピールの甘い香りが鼻腔をくすぐり気分を高揚させてくれる。
エレガントな所作でカクテルをつくる様はひとつの儀式のようにさえ映る。一口飲むと喉元から胸が熱く燃え上がり、映画のシーンを回想しながらのグラスは何とも言い難い至福の時間だった。
そして、もう一軒行かなければいけないレストランがあった。
それはコヴェント・ガーデンにある1798年創業のロンドン最古のレストラン”ルールズ”。
雨の降る夜、レストランでひとり壁に向かって座るM(レイフ・ファインズ)。そこへ部下のミス・マネーペニー(ナオミ・ハリス)とQ(ベン・ウィショー)が突如現れ、Mの夕食を邪魔する。
『スペクター』に登場する1シーンで、ノスタルジーを感じるエントランスの「Rules」のロゴもスクリーンではっきり確認できるのだ。
壁には所狭しと絵画が掛けられ、映画に登場するテーブルは正面から入って通路の突き当たりの時計が掛けられた壁の下。
今回、幸運にもロケで使われたテーブルの隣席を案内され、ここでも蘇る映画の1シーンを回帰しながら、最高の英国料理を楽しませてもらった。
ローストビーフとパイ料理がルールズの名物料理ながら、今回はオイスターとジビエ料理に舌鼓を打ったのだった。
そして、ディナーの後は、レストラン2階にある”ザ・ウィンター・ガーデン・カクテル・バー”へ。”ヴェスパー・マティーニ”でロンドンの夜を締めくくったのだった。