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山と森に包まれて、ドロミテで整う
2025.11.01
WELLBEING, NATURE ESCAPE

山と森に包まれて、ドロミテで整う

WRITTEN BY NAOMI.T

毎日、スマホや予定に追われていませんか。
そんな忙しさから一歩離れ、森の中で「自分」を取り戻す時間を持つ。
それこそ、いま世界が注目するウェルネス旅の魅力です。

求められているのは、動き回る旅ではなく、何もしないという贅沢。
心と体をゆっくり整える時間を持つ旅です。ウェルネス、リトリート、マインドフルネス、デトックス…
ストレス社会の中で、こうした“整える旅”が、新しい豊かさの形として広まっています。

そのなかで、世界でトレンドとなっている日本語があります。
“Shinrin-yoku (森林浴)”
森の中で呼吸を整え、ただ自然の音に耳を澄ます。

そんな日本発の感覚的な習慣が、いま世界中の人々を惹きつけています。

 

9月中旬、夏の終わりのユネスコ世界遺産ドロミーティの山々は、高原の風はまだ暖かく、森の緑は深く息づいていました。太陽の光が木々の間を柔らかく照らし、時の流れまで穏やかに感じられます。

冬は世界中のスキーヤーを惹きつけるこの地ですが、夏にはハイキングやトレイルラン、そして近年は“ウェルネス”という視点からもさらに注目をあつめています。私はその本質を知りたくて、北イタリア・ドロミテへ向かいました。

森の中を歩きながら、心が自然と呼吸を合わせるような感覚に包まれます。
ここには、ただ眺めるだけではない、五感で感じる生きた自然が広がっていました。

ベネチアから山へ

今回の旅はベネチアからの列車で始まりました。乗り継ぎを含めて約4時間の道のりです。
車窓にはぶどう畑が流れ、遠くには大きな山々が姿を見せます。
アナウンスのない列車の中で、次の駅がどこかを窓の外の駅名で確かめながら、旅の行程を思い描いていました。すると、向かいに座っていた現地の男性が話しかけてくれました。
「どこまで行くの?」
「ブロッサローネへ」と答えると、男性はにっこり言いました。
「ブリクセンね。あと3駅ですよ」

ブリクセン?と思いながらチケットを見ると、行き先には “Bressanone / Brixen” の二つの名前が並んでいます。

不思議に思って尋ねてみると、「ここは南チロル地方。もともとはオーストリア領だったのですよ。」と教えてくれました。
なるほど、Bressanone(ブロッサローネ)はイタリア語、Brixen(ブリクセン)はドイツ語で、このエリアを指しているのです。

第一次世界大戦後にイタリア領になったそうですが、ここの住民たちは自分たちの歴史や文化・言語的ルーツを大切にし、ドイツ語を好んで使っているといいます。

通りには「ダンケシェン」という声も響き、イタリアにいるはずなのに、ドイツ語が日常に溶け込んでいることに少し驚きました。
二つの文化が寄り添う、その穏やかな調和もドロミテの魅力のひとつだと感じました。

FORESTIS — 森に還るリトリート

旅の最初の目的地は、近年話題を集めるリトリートホテル「FORESTIS Dolomitesフォレスティス)」。
いま、世界中の旅人たちを魅了してやまないこの場所は、ブリクセンの町から車で山道をおよそ30分。標高1,800メートルの森の奥にあります。

森に溶け込むように佇むフォレスティスは、もともと20世紀初頭、ハプスブルク皇帝によって建てられた保養施設です。当時、南チロルの澄んだ空気と湧き水は、心身を養う力があると広く信じられていました。
その歴史を受け継ぎ、現代の感性で生まれ変わったのがフォレスティスです。

ミニマリズムを基調としたシンプルで落ち着いたデザインが印象的。建築には地元の木材や石材などの自然素材がふんだんに使われ、再利用された資材も取り入れられています。その静かな佇まいは、森や山の風景と溶け合うように美しく調和しています。

全室パノラマビューの客室からは、白くごつごつとした岩山が連なるドロミテの峰々を一望できます。
普段は淡い色合いのドロマイト岩も、日の出や日没の瞬間には、淡い薔薇色から朱色に変わり、まるで魔法にかけられたかのようです。この光景は「エンロサディラ」と呼ばれ、山の静けさと空の色が織りなす一瞬のドラマを楽しめます。

雲に隠れて幻想的に見えることもあれば、晴れ間から突然その雄大な姿を現し、思わず見入ってしまうこともあります。
どの角度から見ても表情を変える山々は、ただ眺めているだけで心を奪われます。

朝は、ハイキングのアクティビティに参加しました。
まだ冷たい空気の中、森の小径を歩きながら、森林浴を楽しみます。木の幹や苔の柔らかな感触を確かめ、足元には、小さなきのこがひっそりと顔を出していました。途中で手にしたドロマイト岩はひんやりとしていて、ざらりとした手触り。
光に照らされる葉や木々の揺れ、森の香りに包まれるひとときは、日常を忘れさせてくれる穏やかな時間です。
ゴール地点では、ケルト民族に伝わる呼吸法を体験しました。深くゆっくり呼吸を整えると、森の静けさが体の中に広がっていくようでした。

ハイキングの後は、スパでトリートメントを。この土地の水や木、石など自然のエレメントを使った施術は、森そのものが体を包み込み、心と体を癒してくれます。

サウナエリアには、天然木の温もりに包まれた、温度の異なるサウナルームがいくつもあります。森の景色を眺めながら、心と体をゆっくりと“ととのえる”ひととき。

なかでも特筆すべきは、「サウナリチュアル」と呼ばれる特別な体験です。90度のサウナルームで熱と冷気を交互に浴びるこの儀式は、体の隅々までリフレッシュされるような感覚をもたらします。
氷が一気に熱せられ、立ちのぼる蒸気とともに木のオイルの香りがじゅわっと広がると、深いリラクゼーションが全身を包み込みます。
香り豊かな木の空間でゆっくりと汗を流すうちに、心も体もやさしくほどけていきます。
火照った体に山の風が通り抜け、清らかな水をひと口含むと、その冷たさが静かに広がり、内側からすっと満たされていくようでした。

食事は、野菜やハーブ、地元で育った肉やチーズなど、素材の香りと味が豊かに広がります。一皿ごとに五感で季節や土地を味わい、温かい料理に心も体も満たされます。

夜は、大きなガラス窓のパノラマビューが広がるベッドルームで眠ります。木の香りにはリラックス効果があり、アドレナリンを鎮め、心と体を深く休めてくれるそうです。
夜が深まると、森の静けさに包まれ、まるで時間ごと眠りに溶け込むように、身体の奥底からぐっすりと休むことができました。

朝目覚めると、静寂の中に響く鳥の声、木の香り、そして窓の外に広がる山の稜線。
深い眠りを経て迎えるこの朝は、まるで森の中で新たに生まれ変わったかのような感覚です。
ここでは“何もしない贅沢”が、自然と許され、心がすっとほどけていきます。

Aman Rosa Alpina — 歴史あるホテルに、新しい風が吹き抜ける

フォレスティスでの静寂の時間を満喫した後、
次に向かったのは最終目的地、Aman Rosa Alpinaアマン ローザアルピーナ)。
長い歴史と品格を備えた「ローザ アルピーナ」が、アマンの感性によって新たな魅力をまとった、注目のリゾートです。

山道を進む約1時間の車窓からは、緑に覆われた斜面や小さな村々が流れるように見え、時折ドロミテの尖峰が顔をのぞかせます。フォレスティスで味わった森の静けさとはまた違った、雰囲気を感じながら、到着を楽しみに待ちました。

サンカシアーノの村は、窓辺に色とりどりの花が飾られた愛らしい景観が広がる、まるで絵本の世界のような場所。ここではイタリア語が日常的に使われる一方で、古くから伝わるラディン語(Dolomitic Ladin)も大切に守られています。

同じドロミテでも、滞在する都市が変わるだけで、景色や文化、言葉の雰囲気がまるで異なります。都市や地域ごとの違いに触れるたび、山々の壮大さだけでなく、地元の文化や暮らしの豊かさも自然と伝わってきます。
こうして少しずつ知ることができるのも、旅の楽しさのひとつだと改めて実感しました。

アマン ローザアルピーナは、ドロミテ山脈の中心、標高1,537メートルの高地に位置し、冬は世界有数のスキーリゾートとして知られています。周囲には1,200キロメートル以上のスキーコースと450基を超えるリフトを誇る「ドロミティ・スーパースキー」エリアが広がっています。

ホテルから直接スキーにアクセスできるスキーイン・スキーアウトの利便性も魅力のひとつ。ゲストは雪と氷の大自然の中で思い思いの時間を楽しむことができます。

夏にはハイキング、トレイルランニング、サイクリングなど、自然と一体になって楽しめるアクティビティが豊富。体を動かしながら、この地の息づかいを感じることができます。

オープン直後から話題を呼び、最新のアマンということもあって、到着日にはほぼお部屋が埋まっていると聞きました。それでも昼間のリゾート内は、思いのほか落ち着いた雰囲気。
この静けさこそ、ゲストが山でのアクティビティを楽しんでいる証でもあります。夕方に戻ると、レストランやロビーがにぎわい、「こんなに多くの人が滞在していたのか」と驚かされました。
ここでの主役は、まぎれもなく外に広がる自然そのものなのです。

山の天候は移ろいやすく、朝は雨が降っていて少し心配でした。するとホテルのオーナーが、山の各所に設置されたカメラでリアルタイムに状況を確認できるシステムがあることを教えてくれ、「あと30分もすれば晴れる」とのこと。その通り、雨はやみ、すっかりハイキング日和になりました。
こうしたシステムも整っており、訪れる人々は安心して山の魅力を満喫できます。

ホテル内で特に印象に残ったのは、ワインセラー「Di Vino Room(ディ・ヴィーノ・ルーム)」です。
天井まで届く棚には世界各国のワインが整然と並び、その壮観さに思わず目を奪われます。
収蔵されているワインはおよそ25,000本とされ、分厚いワインリストには、オーナーの深い知識と情熱が込められており、ここではワインテイスティングやプライベートダイニングを通じて、五感すべてで味わう特別な体験が叶います。

隣には「Cigar Lounge(シガー&スピリッツ・ラウンジ)」もあり、ワインとともにシガーや熟成スピリッツを楽しむ贅沢な時間も過ごせます。
この空間全体が、ホテル滞在のひとときをより豊かに、そして特別なものにしてくれるのです。

アマン ローザアルピーナでは、自然の壮大さと洗練されたサービスが静かに調和し、心からの安らぎと感動を与えてくれました。

雪に包まれる冬も、緑あふれる夏も、ドロミテでは日常の喧騒を忘れ、自然のリズムに身をゆだねることができます。山と森、静寂と活気、伝統と洗練、自然と文化が交わる場所。

ベネチアまでは車で約2時間半。ベネチアへと戻る車の窓に、山の影がゆっくりと遠ざかっていきました。あの静けさが、まだ心の奥に息づいているのを感じました。ドロミテで過ごした日々が、いつのまにか心を整えてくれていたのです。

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