やすらぎと篤き祈りの街、ルアンパバーン
東南アジア最後の秘境とも言われる世界遺産の街、ルアンパバーン。オレンジ色の屋根、オレンジ色のメコン川に溶けるように沈む夕日、そして鮮やかなオレンジの袈裟を纏った托鉢僧たち…。仏教においてオレンジ(樺)色は献身と至福を意味し、あらゆる侮辱や誘惑によく耐え、怒りを鎮める「忍辱」を表すと言われている。このラオスの古都にはまさしく人の心をおだやかにする不思議な空気が満ちている。
ラオスと聞くとどんな風景を思い浮かべるだろうか。そもそもイメージがわかない人もいるだろう。日本ではラオスの知名度はまだ低い。世界最貧国のひとつとされ、国土の8割が山岳地帯、東南アジア最後の秘境とも呼ばれるラオス。発展途上の国というイメージを持ってルアンパバーンの街に降り立った私は、何もない道路に衝撃を受けてしまった。そう、何もない。ゴミが一つ落ちていないのだ。アジアの発展途上国でこんなにも道路が美しい街があるのか…その驚きの理由はすぐに解けることになる。朝靄の中、ぼんやりと樺色の行列が街角から浮かび上がるように現れる。僧侶たちの托鉢行列だ。まだ十にも満たない子どもから壮年の僧侶まで、彼らは一様に素足で、粛々と道の上を進んでいく。まだ夜も明けないうちから熱心に道路の掃除をしていた街の人々の姿に得心が行き、とても清々しい感動を覚えた。
托鉢の幻想的な光景にすっかり心を奪われた私は、アマンタカに2019年新しくできたという“Buddhist Learning Center”で地元にあるお寺の僧侶に直接お話を聞くことができるというアクティビティに参加した。近年、世界的に注目の高まっている瞑想体験に挑戦。なかなか集中が続かない私に、呼吸法や逃げて行った意識を留まらせる方法を丁寧に指導してくれ、コツをつかむことが出来た。一歩敷地内に足を踏み入れただけで空気が変わったように感じられるほど、静寂と安らぎに満ちたアマンタカは精神の奥へ奥へと沈んでいく瞑想にはうってつけの場所だ。
2018年、ルアンパバーン郊外にできたローズウッドルアンパバーンも、外界と隔絶され自然に包まれた静寂のリゾートだ。リゾート内にある滝から流れる小川のせせらぎや鳥のさえずりに耳を澄ましていると、何とも平和的な心地になる。市内の喧騒からすこし足を延ばし、豊かな自然の中ゆったりと過ごすリゾートステイも、ルアンパバーンでの素晴らしい滞在になるだろう。
ルアンパバーンは周囲をぐるりと巡ったとしても1時間程度しかかからないとても小さな街で、その中に80を超える寺院が点在している。ただ、それだけの街だ。黄金色の美しい寺院がひっそりと佇み、人々は皆にこやかで、おだやかでのんびりとした空気が満ちている街。興奮でもない、刺激的な感動でもない、この不思議なやすらぎは、ここにずっといたいと思わせる優しい魅力となって訪れた者を包んでくれる。ルアンパバーンのハイライトとも言える、メコン川に沈む真っ赤な夕日を眺めながら、しみじみといつかまたここに戻って来ようと思う、そんな滞在だった。