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ソーテルヌでシャトー巡り
2022.10.24
FOOD & WINE

ソーテルヌでシャトー巡り

ポイヤック、サンテステフ、メドック、サン・テミリオン…。ボルドーと言えば、世界的な赤ワインの銘醸地であり、ワイン愛好家であれば一度は訪れたい場所。

そんなボルドー地方にあって、もう一か所忘れてはならないエリアが、赤ワインとはまったく性質の異なる極甘口の白ワインを生み出すソーテルヌである。ソーテルヌはやはり世界的な貴腐ワインの銘醸地であり、貴腐ワインそのものの代名詞とも言えよう。
ボルドー・メリニャック空港からガロンヌ川に沿って車で1時間ほど南下した場所にあるのがソーテルヌ地区で、ソーテルヌ、バルザック、ボンム、ファルグ、プレニャックの5つの村からなる。

2022年夏にソーテルヌを訪れた際、シャトー巡りの拠点にと滞在したのが、ボンム村の葡萄畑の一画に建つシャトーホテル、“シャトー・ラフォリ・ペラゲ
400年の歴史を誇るプルミエ・クリュの一つであるシャトー・ラフォリ・ペラゲは、クリスタルブランドのラリックによって13室のブティックホテルとして誕生したソーテルヌ地区では唯一のルレ・エ・シャトー加盟のホテルだ。
ルネ・ラリックの世界観によって飾られた葡萄の葉が刻みこまれたシャンデリアやガラス彫刻を嵌め込んだ調度品の数々は、13世紀から受け継がれている歴史的シャトーが放つ荘厳さと融合し、優美で居心地の良い空間を演出している。

部屋の窓から望むのは、シャトーの外に広がるボンムの葡萄畑の緑々しい風景と城壁に囲まれた美しい中庭のコートヤード。

夏の間だけ営業するオープンキッチン レストラン“ラ・テラス・デ・ラフォリでは、炭火を使ったグリルメニューが楽しめるということで、降り注ぐ真夏の太陽の下、オイスターと烏賊のグリルをソムリエお勧めの白ワインと共に堪能した。
陽気なBGMと地元客で賑わっていたお昼時も、やがて陽が傾き夕暮れ時になるとシャトー全体がエレガントな雰囲気へと一変する。

メインダイニングのラリックは、シェフ ジェローム・シリングによるソーテルヌのテロワールに拘ったガストロノミーで、オープンと同時にミシュラン2つ星を獲得したボルドー屈指のフレンチレストラン。
ラリックのアイデアに満ちたテーブルコーディネートと見た目も味わいも繊細な料理との出会いに感激し、ソーテルヌを含むフランスワインとのペアリングを満喫した素晴らしい一夜となった。
そしてラリックでの体験もまた、プルミエ・クリュのワインエクスペリエンスと共に、シャトー・ラフォリ・ペラゲを滞在先に選んだまさにもう一つの理由だった。

シャトー・ラフォリ・ペラゲは、ボルドーのAOCソーテルヌとバルサックの甘口白ワイン格付け1級プルミエ・クリュに選ばれている11のシャトーのうちの一つ。
レセプションに整然とディスプレイされた黄金色に輝く各年代のボトルには、見ているだけで甘い香りが漂ってくるようで、溜息が出るほど美しい。
ボンヌの小高い丘の上に位置し、36ヘクタールある敷地はシャトー・ディケムと隣接している。ブドウの平均樹齢は40年で、最も古い区画には1926年からの樹もあり樹齢は90年以上にもなる。1ヘクタールあたりの生産量は、6,500本から9,000本程度で、年間生産本数は30,000本から40,000本とのこと。

セミヨンによって美しい粘性とストラクチャーを与え、ソーヴィニョンブランの快い酸味と共にミュスカデルの上品な複雑味が加わって、ブレンドの際に甘美なワインを生み出している。
シャトー・ラフォリ・ペラゲでは、2016年、2010年、2005年、1999年と4つのヴィンテージをテイスティング。どれが一番といったものはなく、甘さとブドウの風味の中にもそれぞれ個性が異なる甲乙付け難いラインアップだった。

最近では、ラリックデザインのレリーフが入ったボトルも人気の理由との事で、ソーテルヌでは宿泊と共に押さえておきたい一軒である。

各村と点在するシャトーを巡るには、移動手段が必要ということで、滞在しているシャトー・ラフォリ・ペラゲでチャーミングな電動バイクをレンタルしてシャトー・ディケムへと向かった。言わずと知れたソーテルヌワインの最高峰で、1855年に行われた格付けで、唯一特別第1級の格付けを与えられた。ソーテルヌを目指すワイン愛好家であれば、誰もが立ち寄るであろう憧れのシャトーだ。
シャトー・デイケムでのワインツアーは完全プライベート。ワインテイスティングを含んだおよそ1時間半程度のツアーは、知識と経験を積んだスペシャリストによって導かれる。400年の歴史を持つシャトーの成り立ち、シャトーを襲った歴史的な出来事と各年代を支えたオーナーファミリーの生き様、シャトーの土壌と自然環境など、通常入る事ができないシャトーの中とヴィンヤード、ワインカーヴを歩きながらの説明はかなり充実していて有意義なレクチャーだ。シャトー・デイケムでのワイン造りは、代々受け継がれている哲学に基づいた厳格さそのもの。

ブドウの収穫量を下げて熟度を上げるため、初冬に厳しく剪定を実施。収穫期前には、70万本にも及ぶブドウ樹の東側だけの葉を落して日照量を確保し、通常68週間かけて150人もの摘み手が、最低4回の時期に分けて完全に熟したブドウのみを最適な状態で収穫すると言う。オーク新樽を100%使用して2週間から6週間の発酵を行い、その後6か月から8か月間熟成させる。
テイスティングにより基準を満たしたものは更に20か月間熟成させ、ブレンドされてから瓶詰めが行われるといプロセス。厳しく選別されたブドウから造られたワインでも、樽熟成の段階でディケムとして世に出すにふさわしくないと判断された場合にはリリースを見送るという徹底ぶり。今もってシャトー・デイケムが世界最高のワインと評価される所以だ。

一通り知識を詰め込んだ後は、いよいよツアーのクライマックスであるテイスティング。
2005年、2009年、2017年の3種類のヴィンテージをテイスティングできるトリロジーを事前に選択していた。
LVMHらしいデザイン性に優れた圧巻のテイスティングルームに通され、3つのグラスとメモ用紙が置かれた巨大なテーブルを占有しつつこれから始まる儀式にしばし神経を集中させる。適温に管理された各ヴィンテージのボトルから黄金色の液体がグラスに注がれると甘いアロマの香りが鼻腔をくすぐり、静寂の中それらを一つ一つ確かめるように口に運んだ。年代によって色と粘度、香りと味わいの違いが容易に判別できる。南国フルーツを思わせる豊潤な果実味と蜂蜜やバニラのような芳醇で上品な甘さ、香ばしい新樽のフレーバー。これも葡萄から生まれたワインの一種かと思うと自然の力と人間の創造力の凄さを感じざるを得ない。

気が遠くなるほどの手間暇をかけて造られるシャトー・ディケムは、言葉にできないほどの優雅さを持つ甘美な味わいだった。
長熟とされるソーテルヌの中にあって、ディケムは100年を超えて飴色になっても風味を持続させることができると言われるほど、高い熟成ポテンシャルを誇る究極の貴腐ワインとのこと。とんでもないワイン!

続いて電動バイクで向かった先は、1611年創業でやはり400年以上の歴史を持つAOCソーテルヌ第2級格付けのシャトー・ダルシュだ。

歴史あるシャトーながら、ソーテルヌでは近年最も革新的な挑戦を続けているシャトーで、環境に配慮した近代的セラーを有するワイナリー複合施設を2019年にオープンさせたばかり。区画ごとの醸造を可能にした完全熱制御のタンクルームはソーテルヌ初導入で、素材には洗剤を使っての洗浄が不要なマイクロポリッシュスチールを採用。300の樽が眠る地下の貯蔵庫は、水冷式温度調節設備が入り、雨水の収集と廃水処理施設も完備。”環境にやさしく、人と自然を尊重するためのワイナリー”の理念の下、環境汚染へのリスクを最小限に抑える取り組みをしている。

シャトー・ダルシュで栽培しているブドウ品種は90%がセミヨンで、ワインにはセミヨンをメインにソーヴィニヨンとミュスカデルを10%程度の比率でブレンドして造っている。
こちらも1時間半のプライベートツアーの最後には、2000年、2003年、2009年、2016年と4つのヴィンテージが用意されていて、それぞれテイステイング。比較的若いヴィンテージばかりだったこともあり、粘性はそれほど高くなく、トロピカルフルーツと柑橘系のさわやかなフルーツのフレーバーが香り、いずれも爽快な酸味が感じられた。
また、ユニークなのは、貴腐ワイン以外にジン、ラム、ウィスキーといった蒸留酒も手掛けていること。ダルッシュ・スピリッツ・ビジットと題してツアーも行っているということで、是非こちらも試してみたい。ワイナリーはイベントスペースとセミナールームも備えており、現在運営中のホテルもよりラグジュアリーなスタイルに改築予定とのことで、今後益々注目のシャトーになりそう。

ソーテルヌ地区には、家族経営の小規模ワイナリーを含めて400軒ものワイナリーがある中で、1855年に行われたAOC格付けに3つの等級に選ばれているのは27軒のみ。

別格扱いの最高クラスであるプルミエ・クリュ・シュペリュールにシャトー・ディケム、第1級のプルミエ・クリュに11シャトー、第2級のドゥージエム・クリュに15シャトーの合計27シャトーが格付けされている。果たしてシャトー・ディケムは、ソーテルヌのどのワインよりも優れているのか?はたまたノンクラッセ(格付け外)が、プルミエ・クリュに本当に引けを取るのか?

電動バイクを駆って、自分なりの答えを探しに気になるワイナリーを思う存分巡ってみてはいかがだろうか。

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