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アマネムにて
2020.07.08
DESTINATIONS, HOTELS

アマネムにて

WRITTEN BY HIROSHI.K

このタイミングでアマネムに来ることになったのもご縁と言うべきだろうか。
昨今の情勢によって海外に赴く事が叶わない中、2016年4月以来の4年ぶりの滞在になる。梅雨の季節のつかの間の休息とも言える、ある意味で特別な時間だ。

前回の滞在は、アマネムがオープンして1か月が経った頃だった。日本ではすでにアマン東京が開業していたものの、知っている”アマンリゾート”のイメージとはかけ離れていた事もあり興味はアマネムへと向かったのだった。
和風の屋根瓦に拘ったという28室のヴィラタイプの客室は、今は亡きケリー・ヒルの手によるもので、天然温泉を各ヴィラに引いているのは世界のアマンでもアマネムだけだ。
英虞湾を見下ろす眺望と、温泉を使ったサーマルスプリング、そして貸切露天風呂といったファシリティが印象的な最初の滞在だった。

期待の高さと満足度が必ずも比例しないのがオープニングのつきもので、とりわけアマンのスタンダードを知るゲストの中には厳しい評価を下した人もいたのではなかろうか。少なくとも私はその一人だった。
それが4年の歳月を経てすっかりアマンらしくなっているという事を感じた。ハードが同じなのにアマンらしさを感じるというのは、ホスピタリティの進化に他ならない。
ゲスト以上に世界のアマンを知るスタッフはおらず、宿泊したゲストによって日々アマンのスタンダードが育まれ”アマンらしさ”を醸成してきたのだろう。ホテルは人だという事を改めて考えさせられる滞在となった。

開業当時からキッチンを率いている総料理長によるおまかせ懐石は、筆舌に尽くしがたいほど素晴らしく、ワインと日本酒を組み合わせたペアリングの妙を楽しませてもらった。
まるで玉手箱のような地元の素材をふんだん使った見事な一品は”箱膳”と名付けられ、見た目のインパクトとは裏腹に繊細で変化に富んだそれぞれの皿の完成度は高く、主菜として頂いた伊賀牛と松阪牛の共演と併せて記憶に残るディナーとなった。
食前と食後に立ち寄ったバーでは若手バーテンダーによるカクテルと会話を楽しみ、スィートに戻って源泉を満喫した後は雨音と共に就寝。

そして、翌朝頂いた焼きたてクロワッサンとアマネムお勧めの和箱朝食もちょっとしたサプライズで、名立たる名旅館の朝食にも引けを取らないクオリティを感じた。
リゾート内のカートでの移動と、スパやレストラン、レセプションスタッフとのやり取り、そして外出先から部屋に戻った時の様子には、これぞアマンの真骨頂とも言うべきシームレスなサービスを体感した思いだ。
安全と安心が求められる難しい時勢の中にあって、益々進化を遂げるアマネムの今後が楽しみである。

思えば、96年にアマンとの最初の出会いとなったアマンダリとアマヌサを訪れて以来、随分と世界のアマンを体験してきた。新しいアマンが出来ると聞くと、わくわくした思いと共に真っ先に足を運んだものだ。
好きなアマンは?と尋ねられると今だに答えはアマンジオだろうか。土着の文化を色濃く表現した幻想的な空間に身を預けるのは、何度足を運んでも新鮮な感動を与えてくれる。
”土着の文化を色濃く”という意味では、マラケシュのアマンジェナもよく知るアマンで、縁あって2009年以来ほぼ毎年訪れている。

24年のアマン偏愛の自分史において、アマンとして滞在したものの、その後アマンの運営を外れたというホテルも幾つかある。
インドのウメイドバワンパレス、ザ・ローディやマナーハウス、タヒチのホテルボラボラ、メキシコのマハクワがそれで、どれも記憶に残る素晴らしいホテルだった。
そしてバリ島のアマヌサも今となっては幻のアマンだ。

アマネムの誕生によって初めて伊勢志摩を訪れたように、アマンの誕生はいつも新しい土地とへ誘ってくれた。
カリブ海のタークス&ケイコスやドミニカ共和国、モンテネグロはアマンが誕生しなければ恐らく訪れる事がなかったであろう国々であり、ましてやアマンプロやアマンワナのある孤島は言うに及ばずである。
リゾートの存在そのものが、ディスティネーションとなるホテルブランドがこの先現れることはきっとないだろう。アマンの誕生がどれほど衝撃的で、エポックメイキングな出来事であったかと改めて感じている。

日本にアマンが誕生するなど想像もできなかった90年代、今や世界に31軒のホテルを展開するまでになった。
どういう訳か、ブータンのアマンコラと、クーシュベルのル・メレザンの2軒は未だ足を運べていない。来シーズンあたりに開業間近のアマンニューヨークと併せて予約を入れることにしたい。
そして落ち着いたころには過去の軌跡を振り返る意味で、もう一度アジアのアマンをじっくり巡ってみたいと思う。
その時は、異文化に触れる価値、移動の価値、人に出会える価値は今まで以上に高まっているに違いない。
2020年6月 不確かな時の中にいて、世界のアマンへの想像力を掻き立ててくれたそんなアマネムでの滞在になった。