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ワインと巡る日本の旅【前編】
2020.09.24
DESTINATIONS, WINE

ワインと巡る日本の旅【前編】

WRITTEN BY Hiroshi.K
ヴィンヤードに佇み、太陽を浴びて光り輝く葡萄の房と見ていると、ただそれだけで楽しく、そしていつの日かワインとなって口元に運ばれてくるのを想像するとわくわくしてくる。
海外のワイナリーを訪れる度に感じる思いからすっかり遠ざかってしまったいつもとは異なる2020年の夏、そんな高揚感を取り戻そうと日本ワインの魅力に触れる旅に出た。
向かった先は、長野、山梨、宮崎、そして北海道。いずれも日本を代表するワインの名産地であり、日本ワインを知るには十分なエリアだ。
規模を問わず300を超えると言われている日本のワイナリーの中にあって、日本ワインを代表するワインメーカーの一つと言えばシャトー・メルシャンの名前が挙がるだろう。
1877年大日本山梨葡萄酒会社が創設され、その後「世界に認められる日本ワイン」を掲げてメルシャンブランドが誕生。
メルシャン1962の国際ワインコンクール金賞受賞を皮切りに数々のアワードを受賞して来た日本ワインの歴史そのものと言っても良い老舗ワインメーカーである。
メルシャンが国内で3つ稼働させているワイナリーの内、まず訪れたのが2019年に操業を開始したばかりの長野県上田市の丸子地区にある”シャトー・メルシャン椀子(まりこ)ワイナリー”だ。
葡萄の葉が蒼々と茂り果実が成熟度を増すこの時期は、ワイナリーを訪れるには最高の季節。
標高650メートル、周囲360度をそれぞれ北アルプス、美ヶ原、浅間山、蓼科山といった山々に囲まれた30ヘクタールもの広大な自社管理畑のランドスケープ、そしてその中心に鎮座する白色の最新のワイナリーが美しい。降雨量が少なく日照時間が長い。そして、水はけが良い粘土質の土壌がこのエリアの特徴とのこと。
そして椀子ワイナリーは、建物自体が周辺の葡萄畑に1年を通じて少しの陰もかからないように配慮して設計されているというから驚きだ。
ガイド役である醸造担当の方の案内でヴィンヤードを見て回った後は、2階の特別室「オムニスルーム」にてお待ちかねのテイスティング。プレミアムコースでは、地元食材を使ったこだわりのおつまみと共に6種類のワインをテイスティングを楽しめる。
「フィネス&エレガント」がシャトーメルシャンが掲げるコンセプトというだけあり、シャルドネもメルローも慣れ親しんだ海外ワインで感じるパワフルさはなく、どこかやさしい味わいだった。
この日もう一軒訪れたのが、同じく千曲川ワインバレーと称される醸造エリアの一つ、須坂にある”楠ワイナリー”。ワイナリーとショップ周辺には葡萄畑と共に一般住宅も建ち並び、”シャトーメルシャン椀子ワイナリー”とはうってかわって対照的な環境だ。
オーナーの楠さんは、20年ほど勤務した会社を退職し、アデレード大学でワイン造りを学んだ後、出身地である須坂に戻り、2004年ゼロからブドウ栽培を始めたという異色の経歴を持つ。
2018年、やはりワイン造りを学ぼうと関東から移り住んできたというソムリエの岩崎さんの案内で収穫前の畑を見せていただいた。懇切丁寧な説明を聞き入りつつも、葡萄作りがいかに手がかかるかということを改めて思い知らされた一時だった。
”楠ワイナリー”でも6種類のワインをテイスティング。偶然残っていた?1stヴィンテージのピノも味わいつつ、バラエティに富んだそれぞれのワインのストーリーを伺いながら、これぞワイナリー訪問の醍醐味とも言うべき至福の時間を過ごさせていただいた
長野での宿泊は、松本郊外に佇む扉温泉明神館。清流の脇に建つ自然の中の一軒宿は、森林浴が心地良く、真夏の暑さから逃れるにもぴったりの場所だ。
到着早々ラウンジにて、ソムリエの栗原氏による長野ワインのテイスティングとレクチャーを楽しませていただき、そのままフレンチダイニング”采”でも、長野の自然と季節の移ろいを感じるひと皿ひと皿の料理を地産ワインのペアリングと共に堪能。
テイステングとディナーを合わせて11種類のワインを口にしたものの、40か所あると言う長野のワイナリーの数からすれば、ほんの入り口程度にしかすぎないようだ。
9月に入って向かったのは、山梨県の甲府市勝沼町。言わずと知れたぶどうの名産地で、日本ワインの発祥地でもある。
レトロな雰囲気が漂う勝沼ぶどう郷駅に降り立ち、真っ先に向かった先はロリアンワインの白百合醸造だ。
季節は収穫の最盛期ということもあり、辺り一面のブドウ棚には果実が実り、旧甲州街道沿いに建ち並ぶブドウ園は書き入れ時といった様子。
白百合醸造では、3代目となる内田社長が出迎えてくれた。
自社ワインについてはもちろん、勝沼のぶどうとワイン造りの歴史、勝沼のワイナリー有志で組成されたワイナリーズクラブの活動や昨今の日本ワインのポジショニングについて等話題は尽きず、興味深い内容ばかりで時が経つのも忘れ聞き入ってしまった。
そして醸造施設とブドウ畑へ。様々な品種を見て回った中でも、初めて見た甲州には「これが甲州か」という思いでちょっと感動。
の甲州に至るまでのストーリーを伺った直後だけに、淡い藤色とも言うべき房は何とも美しく光輝いて見えたのだ。
そして長野に続き、勝沼でもシャトー・メルシャンは外すことはできない。
シャトー・メルシャン勝沼ワイナリーこそ、140年の歴史を持つ日本最初の民間ワイン会社なのである。
ワイナリーに隣接する1904年に建てられた現存する日本最古の木造ワイン醸造所は、シャトー・メルシャンのワイン造りの歴史を知ることができる資料館となっていて、日本最古のワインやヴィンテージラベルなどといった貴重な展示物で楽しませてくれる。
プライベートツアーに案内していただいたのは、元工場長で栽培責任者の上野昇さん。
豊富な知識と経験によって語られる説明は分かりやすく、時折ユーモアを交えての案内に惹き付けられ、シャトー・メルシャン勝沼も充実した時間に。
祝村ヴィンヤードを見せていただき、ツアーの終わりはワインショップへ。
上野さんが手掛けたブドウを使って開発された”岩出甲州きいろ香キュベ・ウエノ”を購入し、ボトルに上野さんのサインを頂けば、自分だけの特別な1本だ。
ワインは人であり、ストーリーであることを改めて感じさせらたひとときだった。
勝沼と言えば甲州品種。訪れたワイナリーは、いずれも甲州に誇りを持ち、並々ならぬ情熱を注ぎ込んでいる様子が伺えた。
中央葡萄酒の栽培醸造責任者の三澤彩奈さんもその一人。
「キュヴェ三澤明野甲州2013」が、“Decanter World Wine Awards”において日本ワインとして初めて金賞を獲得し、以来6年続けてアワードを受賞し続けている。
四代目で社主の三澤茂計氏と共に、日本の甲州を世界の”KOSHU”に変えた第一人者と言えよう。

その世界に誇る日本の甲州は、長らく日本の固有品種として勝沼に根差してきたものの、2013年に行われたDNA鑑定によってワイン醸造に適した欧州系のヴィティス・ヴィニフェラの遺伝子を引き継いでいる事が確認された。日本固有の品種として1,000年以上の歴史を持つ甲州ブドウのルーツが、遠い昔シルクロードを渡って日本にやって来たということを想像すると、何ともミステリアスでロマンが溢れ益々甲州ワインのファンになりそうだ。
透明感があり、すっきりとした口当たりで、主張しすぎずもブドウの存在感を感じる収れん味を伴った旨苦み。今回の勝沼訪問で甲州の記憶がすっかり脳に刻み込まれた気がする。

丸藤葡萄酒では大村社長からワイナリーと畑のヒストリーについて、勝沼醸造では、有賀ファミリーとリーデルグラスとの関りについてそれぞれ熱く語っていただき、やはり勝沼でワインを造り続けることへの情熱とこだわりと学ばせていただいた思いだ。

世界と互角に戦うため、あえて海外品種で取り組むワイナリー、或いは日本らしさを表現するため甲州に絞って情熱を注ぎこむワイナリー。そして垣根栽培、棚栽培、一文字仕立て・・・ブドウの栽培方法も様々だ。
世界の著名なブドウ産地に比べると圧倒的に難しいとされる日本の気候と風土に対して、知恵と工夫、努力によって克服してきたストーリー、ブドウに命を懸け、ブドウと共に生きた私たちの祖先の生きざまを知る旅となった。