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ワインと巡る日本の旅【後編】
2020.10.28
DESTINATIONS, WINE

ワインと巡る日本の旅【後編】

WRITTEN BY YURI.Y, MIKA.K and HIROSHI.Y

勝沼での宿は、甲州市の奥座敷である笛吹川温泉別邸坐忘にとった。川の音が笛の音色のようという地名の由来通り、微かに聞こえる川の音が心地よさを運んでくれる場所だ。
三千坪の敷地にわずか19室の客室、天然温泉の露天風呂付離れや菜園、古民家を改装した食事処、懐石”まる喜”。静寂に満ちた自然が、日頃の疲れを癒してくれる贅沢な空間が広がっている。
この宿に泊まる魅力の一つは、現存する日本最古のワイナリーと言われる勝沼「まるき葡萄酒」のワインと食事とのマリアージュを楽しめることだ。

特に印象的だったのは”煮貝”。煮貝とは醤油樽に漬けた鮑が、江戸時代に駿河湾から海の無い山梨に馬の背中で揺られてくる間に甲州で適度な味わいになったというストーリーを持つ一品。偶然の産物が甲州名物となり、今尚愛され続けている。
甲州ワインとのマリアージュは見事としか言いようがなく、歴史ある”まるきワイン”とのペアリングを心行くまで堪能した思いだ。そして締めくくりは、郷土料理の”ほうとう”。
地産の食材と伝統にこだわった宿自慢の茶料理に舌鼓を打ち、勝沼で生まれ育ったワインとの妙を楽しんだひとときだった。

食事の後はライブラリーラウンジへ。ワインに纏わる書籍や雑誌に囲まれながらジャズをBGMに、ワインに加えて挽きたてのコーヒーなどを好きなだけ味わえる古民家風でありながらモダンな空間のラウンジ。
ワイナリーにはそれぞれの思いやストーリーがあり、それが瓶に詰められ訪れた人たちの心へ引き継がれていく。そんなことを思いながら過ごした甲州の夜だった。

「 ワイン造りとは、ブドウの力を最大限に引き出してあげること。有名ワインを造ることが目的ではなく、  ただ良いブドウと良いワインをつくること。そして余市の農家の人達の先駆者でありたい。」
と語るのは、「ドメーヌ・タカヒコ」の曽我貴彦 さん。
「noma」で日本ワインとして初めてリストに名を連ねたワインの作り手だ。 1本のワインに注ぎ込む郷土愛と、余市との絆を大切にする思い。時流に流されることなく、揺るぎない信念を持って進む人達の想いは何よりも強い。

夏の終わり、出会いとストーリーを求めて収穫前の北海道余市町へと赴いていた。余市は日本においてワイン造りの歴史こそ浅いものの、希少とされる上質なワインを生産するワイナリーが存在する、今や日本ワインを語る上で外すことができない生産地だ。
曽我さんは、栽培に適した地を求め、もっとも条件に見合う余市登に移り住んでブドウを育てはじめ、2010年にワイナリーを創業。道内でもブドウ栽培が盛んな余市は、 ブドウ農家を専業にしているところが多いにも関わらず、当時はワイナリーが1軒しかなかったそうだ。

「ワインは風土と感性を詰めたもの。  ”日本のワインはおもしろい”と思ってくれる人が増えたらいい 。」
ワイン造りの為に育てるブドウは、ピノ・ノワールだけと最初から決めていたと言う。雨が多い気候では良質なブドウを育てることが難しいとされているピノ・ノワールを、あえて有機栽培で育てている。
収穫したブドウはまずタンクに入れ、放置したままゆっくり全房発酵させる。この方法は、かのロマネコンティと同じ手法で、日本では当時この醸造手法を持ち込む発想はなかったとのこと。テロワールの特性と共に、毎年降る雪の量と質を織り込んだ余市独特の手法によって、大手では造ることができない独自のワインスタイルを確立したのだった。

「和を表現するのがコンセプト。ナチュラルワインで、里山を歩いたときに感じる、四季折々の日本の風景を思い浮かべるようなワインの香り。味が濃いわけではないのに、旨味を強く感じる。
出汁のような旨味があり、一口飲めば、感動の世界が広がりますよ。」世界中のワインラバーを魅了することとなった「ナナツモリ ピノ・ノワール」。余市のピノ・ノワールの魅力を新しく引き出した1本が生まれたのだった。

畑にこだわる農夫として、理想の世界を探し求めていきたい。そして、栽培や醸造を含めて、日本ワインの文化を世界に広め、余市を盛り上げていきたい。そんな曽我さんの思いを共有するのが、札幌から移住した村井夫妻だ。
同じく余市登、ワイナリーから徒歩5分にある「余市SAGRA」は、村井夫妻が2017年にオープンしたオーベルジュで、「ドメーヌ・タカヒコ」と共に、どうしても訪れたい場所だった。

木の香りに包まれた2室の客室とレストランは、お洒落で余市の自然の中に溶け込む空間を演出。

食事は、その日に取れた北海道の食材をふんだんに使った「シェフのお任せコース」のみ。
「ドメーヌ・タカヒコ」はもちろん、「ドメーヌ・アツシスズキ」や「ドメーヌ・モン」といった地元、余市登のワインとのペアリングは至福の時間だ。

「余市登に魅力を感じ、移住してきて更に想いが強くなった。ワインの魅力、土地の魅力、そして生まれ育った北海道の魅力を、料理を通じてお客様に美味しく味わっていただくために、常に生産者を訪ね、彼らの物づくりの想いを料理のエッセンスとして取り込んでいるつもり。
そして生産者とお客様の橋渡し的存在でありたい。」オーナーシェフの村井さんは熱く語ってくれた。そして、ワインがつなぐご縁は、そのまま札幌へと受け継がれているのを知ることとなる。

「ドメーヌ・タカヒコ」を始め、北海道の上質なワインと旬の食材にこだわった最高の料理を札幌で堪能するのであれば、ミシュランレストラン 「AKI NAGAO」は必ず訪れていただきたい一軒だ。
東京、 パリ、南仏の著名レストランで修業し、2010年に故郷北海道に戻り 「AKI NAGAO」をオープン。 フランス料理の基本を大切にしつつ、”北海道においてフランス料理を提供する意味”を追求。

そんな探求心によって曽我さんをはじめとする”思い”を共有できる生産者との信頼関係を構築し、希少なワインはもとより、ここでしか体験できない「食」と「空間」が織りなす唯一無二のガストロノミー体験を提供してくれている。
五感に働きかける演出は素晴らしく、旬の食材をふんだんに使った一品一品を見事なペアリングでもてなしてくれる時間は、また来たいと思わせてくれる素敵なひとときだった。

「故郷への想いと、故郷から伝える想い」深い郷土愛と流行に流されることのない哲学と情熱、妥協しないプロフェッショナリズムが今回出会った3人の”創り手”の共通項だろうか。
ワインと巡る北海道の旅を通じて感じたのは、触れたものが広大な大地と豊かな風土がもたらしてくれる魅力と恩恵のほんの一部分に過ぎないと思えるほど奥深く、未知なる出会いへの興味を掻き立ててくれるものだった。そんな思いで夏の終わりの北海道を後にしたのだった。

所変わって南国は宮崎。フェニックスの木が立ち並ぶ南国の宮崎でワイン?
高温多湿でたびたび台風の直撃を受ける、およそワイナリーのイメージとかけ離れたこの地で世界的に高評価を獲得したワイナリーがあるとのことで、宮崎市内から北に1時間のドライブをして都農ワイナリーにやってきた。
快晴の青空の下、海岸からもほど近く、標高150メートルの高台に位置するワイナリーから、都農の町の先に日向灘を望む絶景が広がる。丘の上のこじんまりしたワイナリーながら、九州という土地柄なのか、心なしか明るく開放的なイメージが印象的なワイナリー。

もともと生食用のブドウ栽培が盛んだった都農町では、ワインを造りが始まって約30年とその歴史はまだ浅め。それでも国内外で数々のアワードを受賞するレベルにまで至った秘密は如何に。
九州の土地は火山灰土壌で排水性は優れているもののカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分に乏しいため、なかなかフルボディのワインが生まれないと言う。都農ワイナリーでは、地元の農園と協力し、堆肥を積極的に利用したブドウの根が張りやすい土をつくるところからワイン造りを開始した。

元々の土壌の特質から生まれてくる繊細で華やかな香りに加えて、重みと複雑さをもった上質のシャルドネを造り上げているのだとか。
ワイン造りは土作りからとはよく言ったもので、ワインにはその土地の特色が必ず反映されるもの。
土地の魅力を最大限に発揮しながら世界に通用する品質のワインを作るために、数々の試行錯誤を繰り返しながら今もなお進化しようと努力する。
これぞワイン造りのロマンで、洋の東西を問わず人を惹きつける魅力なのだと改めて感じさせられた思い。

海から吹く心地よい風がもたらす海のミネラル成分も武器にした都農ワインが誇るシャルドネの最高峰”PRESTIGE”のファーストヴィンテージが2020年8月に初出荷。フレンチオークの新樽中心に発酵熟成させた、ワイナリーの新しい歴史を刻んでいくはずのこの一本。
流石南国生まれ。樽熟が一目で分かるほど美しい飴色に輝き、トロピカルフルーツを思わせる豊潤で甘い果物の香りがグラスに広がり、口に含めば僅かな酸味と濃密な甘さ、そしてふくよかな旨味に支配された。
今回の訪問の思い出と、造り手の情熱を感じながら心して楽しませていただいた。

”素晴らしきかな日本ワイン”今回の旅を通じて感じた率直な思いである。その土地土地には異なる風土があり、自然と向き合いワイン造りに情熱そ注ぎ込む人たちがいた。もはや世界のワインと比較して優劣を議論することすら無意味に思えて来る。年ごとに増えている日本ワインの生産者は300を有に超えていると言い、今回訪れた地域とワイナリーはほんの一部に過ぎない。
今一度感じる”素晴らしきかな日本ワイン”いつもとは違う夏がもたらしてくれた嬉しくもありがたい宝物だ。さあ次はどのワイナリーを目指そうか。

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