サン・ピエトロ大聖堂、セント・ポール大聖堂、ノートルダム大聖堂…。
世界には数多くの素晴らしい聖堂や教会があるが、中でもとりわけ異彩を放ち人々を惹きつけてやまないのは天才建築家ガウディが設計し140年以上も建築作業が続く“未完の世界遺産”サグラダ・ファミリアではないだろうか。

日本人としてこの驚異的な建造物を見た時、まず意識に上るのは彫刻家の外尾悦郎氏だろう。ガウディがサグラダ・ファミリアで過ごした年月さえ超える45年という歳月をこの教会に捧げている主任彫刻家だ。私は、異国の地でガウディの魂を引継ぎ、挑戦を続けているひとりの日本人がいる事に深く感動し、実際に生誕のファサードの下に立ってその仕事を目の当たりにした瞬間、大きな衝撃を受けた。
外尾氏は、ガウディそのものを理解しようとするのではなく、ガウディが見ている方向（未来）を見る、彼と同じ方向を見ようとした時、自身の中にガウディが入り込んだ思いがしたと言う。キリスト教に馴染みが深いとは言えない私も、ガウディが持つ自然への敬愛に共感を抱きつつ教会の椅子に腰を下ろしていたら、異国の大天才による異文化の建造物が意外なほどに身近に、そして居心地よく感じられた。ひょっとしたら外尾氏が悟った境地のほんの一端を感じられたのかもしれない。

ご存知の通りバルセロナには数多くのガウディによる建造物がある。しかし、郊外にもガウディと同じ方向を見るためのヒントとなる地がある。
例えば、「芸術におけるすべての回答は偉大なる自然の中にすべて出ている」というガウディが持つ自然への絶対的な信頼が培われた地、モンセラット。神秘の奇岩群で知られるモンセラットには少年合唱団で有名な修道院があり、そこでミサに参列してみるのも良い体験になるだろう。
より学究的に建築物を見てみたいのなら、ガウディ研究の専門家とともにめぐるアカデミックなツアーも体験できる。
一週間程度時間をかけてじっくりとしたバルセロナ滞在をおすすめしたい。

2021年にサグラダ・ファミリアに聖母の塔が完成し、夜闇に輝く先端を飾る星がコロナ禍で苦しみに耐える人々に希望を与えた。そして、最も高い172.5メートルになると言われているイエスの塔は2026年完成予定。
「工事はゆっくりと進む。何故なら私の依頼主である神は完成をお急ぎではないからだ」とはガウディの言葉だが、刻々と変貌を遂げるサグラダ・ファミリアの姿は一瞬とて同じではない。
一生に一度、そして死ぬまでにもう一度、その姿を目に焼きつけるためにバルセロナへ。いつでもこのバシリカは人種や宗教の壁を越え、訪れる者すべてを優しく迎え入れてくれる。